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広島地方裁判所 昭和47年(行ウ)31号 判決

原告(選定当事者) 杉本巖

被告 広島市固定資産評価審査委員会

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  別紙目録記載の各土地に対する昭和四七年度固定資産課税台帳登録価格(評価額及び課税標準額)につき、被告が昭和四七年八月三一日付でなした原告の審査申出を棄却する旨の決定を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  昭和四七年当時、原告は別紙目録一ないし三及び五記載の各土地につき、選定者杉本恵彦は同目録四記載の土地(以下同目録記載の各土地を本件各土地という)につき、それぞれ所有権を有していたところ、同年二月二八日広島市長は、右各土地につき、いずれも同年度の現況地目、価格、固定資産税課税標準額及び都市計画税課税標準額を別紙目録中各該当欄記載のとおり決定して、広島市備付けの同年度固定資産課税台帳に登録した。そこで、原告及び選定者杉本恵彦(以下原告らという)は、右登録事項のいずれについても不服があつたので昭和四七年三月被告に対して地方税法四三二条に基づき審査の申出をしたが、被告は同年八月三一日付で右審査申出を棄却する旨の決定をした。

2  しかしながら、右棄却決定は次の理由によつて違法であるから取消しを免れない。

(一) 地目認定の違法

本件各土地は昭和四七年度の固定資産税賦課期日である同年一月一日当時、広島市西本浦町土地区画整理組合(以下本件土地区画整理組合という)の施行する土地区画整理事業(以下本件土地区画整理事業という)の施行地区内に存しており、未だ工事中であつて、いかなる使用収益も不可能であつたのであるから、現況地目も未定でなければならないのに、これを宅地並みに課税するため雑種地と認定したことは違法である。

すなわち、右工事着手前における本件各土地の従前の土地の現況地目は、別紙目録中台帳地目欄記載のとおり畑又は山林であつて、原告らは従前より農業に従事し本件各土地の大部分を畑として耕作していたので、本件土地区画整理組合への加入も換地を畑として利用する目的をもつてなしたものである。そして、右工事の完成後原告らは、昭和四八年頃から当初の目的どおり本件各土地を畑として利用している。したがつて、広島市長も昭和五〇年以降は、本件各土地の現況地目を農地と認定しているのである。

(二) 評価の違法

(1) 本件各土地には次のような特有の欠陥があるのに、広島市長は本件土地区画整理事業の施行地区内の他の土地と一律に評価しているのは違法である。

イ 他地区に比べ工事が甚しく遅延していた。

ロ 既設道路も予定道路もない完全袋地で区画道路の新設は永久不可能であつて農地以外の用途には供し得ない。

ハ 地形上汚水処理場の利用は不可能である。

ニ 上水道電力供給設備がない。

ホ 大幅な追加工事を施さない限り宅地化は永久不可能である。

(2) 広島市本浦町乙三三四番二山林一万七四三八平方メートル(以下件外土地一という)は本件各土地に隣接し、且つ類似する土地であるが、その評価額は広大な面積にかかわらず全体で三三万七、五九三円となつており、本件各土地の価格と対比すると著しく低く、評価の公平を欠いている。

(3) 本件土地区画整理事業は初めから昭和四八年度内の完成を予定していたものであるところ、昭和四七年二月広島市長のなした本件各土地に対する地目認定及び評価は、その実情を無視し不法に評価時点等を繰り上げて、納税義務発生一年前になしたものであるから税金の先取りとなり違法である。

(4) 広島市長は従前地の地積(台帳地積)に対する区画整理後の地積(ただし公共用地、保留地を除く)の割合を別紙評価算式比較表記載のとおり〇・六一四と算定し本件各土地を坪当り九、〇〇〇円と評価している。しかし、右割合は、同比較表記載のとおり、事業計画書によれば〇・五五、換地明細書によれば〇・五〇六、各筆各権利別清算金明細書によれば〇・四三五とそれぞれ算定され、右のいずれの割合によつて計算しても本件各土地の坪当り評価額は九、〇〇〇円をはるかに下廻るので、広島市長のなした前記算定評価は明らかに不当である。

(5) 本件各土地の従前地は山林又は畑であり、換地後の現況も大部分畑として利用されているのであるから、昭和四七年度の固定資産税課税標準額及び都市計画税課税標準額は、昭和三八年度の各課税標準額によるべきであつたのに、広島市長が本件各土地につき宅地並みの高い額を付したのは違法である。

3  よつて原告は、本件各土地に対する昭和四七年度固定資産課税台帳登録価格(評価額及び課税標準)につき、被告が昭和四七年八月三一日付でなした原告の審査申出を棄却する旨の決定の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否及び反論

1  請求原因1記載の事実中、広島市長が地方税法四一〇条(固定資産の価格等の決定)に基づき本件各土地の価格を決定したこと、及び原告らが被告に対し、固定資産課税台帳に登録された本件各土地の昭和四七年度の価格等について審査の申出をなし、被告が右申出について審査の結果これを棄却する旨の決定をして昭和四七年八月三一日付で原告に対しその旨通知したことは、いずれも認める。

2  同2の(一)記載の事実中、昭和四七年度の固定資産税の賦課期日である昭和四七年一月一日現在、本件各土地が土地区画整理事業の施行中であつた事実は認めるが、その余の主張は争う。

すなわち、原告らが農業に従事していたか否かは、本件各土地の評価に当つて何ら考慮する必要はないし、仮に考慮されるとしても、原告は宅地建物取引業に従事していたもので専業農家ではない。

また、昭和四七年度の本件各土地の地目認定の当否はその賦課期日における同土地の現況により判断されなければならず、その後の土地利用状況によつて判断されるべきではない。

なお、本件各土地の中には、昭和五〇年以降農地として認定されているものがあるが、右土地は、当該年度の賦課期日において明らかに農地として適正な肥培管理が行われていたため農地として認定されたに過ぎず、広島市長は本件各土地のうち空地として放置されている土地は雑種地、住宅の敷地となつている土地は宅地として認定しているのである。

3  同2の(二)記載の主張はすべて争う。

(一) 仮に本件各土地につき原告主張のような部分的欠陥が存在したとしても、固定資産税課税のための評価に当つてこれを当然考慮しなければならないものではなく、一団の土地全部が宅地に造成される限りにおいてその全域を宅地と考えるのは何ら違法ではない。

(二) 件外土地一は、本件土地区画整理事業の施行地区外に存在するとともに、その現況は傾斜面にして松杉その他の雑木、花木(ツツジ、サツキ、サザンカ等)等が生育していて山林の現況をなしているのであつて、たまたま本件各土地に隣接しているにすぎず、住宅地として造成途上であつた本件各土地とはその状況が全く類似していない。

(三) 広島市長が、昭和四七年度賦課期日(昭和四七年一月一日)の現況に基づいて宅地比準の評価をするに当つては、完成された宅地として評価したものではなく、本件各土地が宅地に完成される途上にあつたことに鑑み、完成に至るまでの通常費用と認められる造成費相当額を付近の宅地の価格から減ずる等の補正を行なつて評価したものであつて、税金の先取りではない。

(四) 同2の(二)(4)記載の事実中当初の事業計画書による算定が原告主張のとおりであつたことは認める。しかし、右事業計画は区域の拡大、道路、公園等の変更を行なうため、昭和四五年八月一三日付で変更の申請がなされ、右申請にかかる変更事業計画は昭和四六年三月九日付で広島県知事の認可を受け、同日広島県報に公告されているものであつて、右変更後の事業計画によればその割合は広島市長の算定したとおりである。

また、本件土地区画整理事業の換地計画(原告主張の換地明細、各筆各権利別清算金明細を定めることとされている。)は、昭和四七年一〇月九日換地処分の方法に関する件等を議題とする臨時総会開催、同年一〇月一一日から二四日まで換地計画縦覧、同年一一月二二日認可申請、同年一二月一四日認可という経過によつて成立したものであつて、原告の引用する換地明細書及び各筆各権利別清算金明細書は昭和四七年度賦課期日(昭和四七年一月一日)においては未だ存在せず広島市長も了知し得る状況になかつたのであるから、原告が右換地明細書及び各筆各権利別清算金明細書に基づく数字を本件土地の評価額の算定につき引用するのは失当である。

三  被告の主張

1(一)  本件土地区画整理事業の経過は、昭和四四年一一月一四日事業計画認可、昭和四六年一月一〇日工事着手、同年三月九日変更事業計画認可、昭和四七年一二月二六日換地処分完了というものであるところ、当初の事業計画及び変更事業計画によれば、その目的は理想的な住宅地の造成を図ること、設計の方針は施行中の広島市本浦土地区画整理事業との有機的関連を図り相互の住宅地の利用増進を図るよう計画すること、公共施設整備改善の方針は当該地区を将来理想的な郊外住宅地とするため健全な住宅地を造成すること、などとなつており、本件土地区画整理事業が明らかに宅地の造成であることを表明している。

(二)  本件土地区画整理事業の施行地区は、宅地造成工事規制区域(宅地造成等規制法三条)として指定された黄金山区域内に存在しているので、造成主である本件土地区画整理組合も、宅地造成に関する工事について、昭和四四年一〇月二〇日付で広島県知事の許可を受けたうえ、造成工事に着手したものである。したがつて本件土地区画整理事業は、宅地造成等規制法の適用を受け、客観的にも宅地の造成を目的としていたものである。

(三)  原告らは、昭和四五年一二月五日株式会社共立組(本件土地区画整理事業の工事請負人)との間で本件各土地につき宅地造成工事契約を締結しているが、右契約においては、「宅地造成工事規制法の政令で定める技術的基準に従い認定された宅地として造成する工事を請負うものとする。」(同契約書第一条)、「上下水道並びに道路舗装工事完了迄を施行するものとする。又共同糞尿処理施設を設置するものとする。」(同契約書第九条)と約定されており、更に契約書によれば右工事が宅地造成等規制法の適用を受ける宅地の造成であることを規定し、畑としてだけの利用には不必要な上下水道等の施設の設置を請負人に義務づけていることなどからして、原告らも本件土地造成後の換地を宅地として利用する意図であつたことは明らかである。

(四)  以上のとおり、本件土地区画整理事業は、農地の単なる区画形質の変更ではなく、宅地しかも住宅地の造成を目的としたものであり、原告らも本件各土地を宅地として利用する意図を有していたものである。

2  昭和四七年度賦課期日(昭和四七年一月一日)当時、本件土地区画整理事業は工事中であつたが、本件各土地を含む施行地区内は、すでに丘陵地の表土は削られ、道路(メイン道路幅員八メートル)の付設、石積、整地等も完了し(宅地造成等規制法による宅地造成工事等について災害防止のための規制に適合する工事を施行)、ただ、上下水道本管敷設が工事中で、道路の舗装等の工事のみが未着手という状態であつたにすぎなかつたから、完成後は当然宅地として認定することを予想し、それが未完成であつた賦課期日当時において、広島市長が本件各土地を雑種地と認定したことにつき何等の違法はない。

3  そこで、広島市長は用途変更によつて本件各土地の現況地目が雑種地に変換されたと認定し、本件各土地の固定資産税については、昭和四七年度が第三年度にあたるところから、本件各土地に類似する土地の基準年度の価格に比準する価格を本件各土地の昭和四七年度価格として決定した(地方税法三四九条三項但書、同条二項一号)。

したがつて、本件各土地の具体的評価に当り、広島市長はまず、本件土地区画整理事業施行地区全体を住宅地区と決定し、街路の系統、幅員、構造、勾配等の街路条件、交通施設、公共施設等の接近条件、宅地の利用状況、自然環境の良否等の宅地条件によつて、最も本件各土地に類似した隣接の宅地として、広島市本浦町土地区画整理組合の造成地(以下件外土地二という)及び丹那新町朝見原造成地(以下件外土地三という)を選定し、右各土地の基準年度価格(前者は坪当り二万三、九〇〇円、後者は坪当り二万三、七〇〇円、いずれも最高地)に比準して本件各土地の路線価を坪当り二万二、〇〇〇円と設定した。

さらに、固定資産課税台帳に登録された本件各土地の地積は登記簿上の地積と同一である(同法三八一条)が、前記のように本件各土地が土地区画整理事業の施行中であるため事業完成時には登記された地積より減少することが予測されたので、広島市長は、事業計画による減少予定地積を調査し、別紙評価算式比較表のとおり減少予定による残存地積率〇・六一四を算定して、これを右類似宅地の比準価格坪当り二万二、〇〇〇円に乗じて実質的に地積の減少があつたと同じ価格坪当り一万三、五〇八円を算出した。

そして、広島市長は、右算出の比準価格から本件各土地を宅地に転用する場合において通常必要と認められる造成費に相当する額(坪当り四、五〇〇円)を控除して(一万三、五〇八円―四、五〇〇円=九、〇〇八円)、本件各土地の坪当りの評価額を九、〇〇〇円(一〇円末満切り捨て)と定め、本件各土地の各筆評価額を別紙目録中価格欄記載の各価格と決定した(地積(坪数)×九、〇〇〇円=評価額)。

4  以上のとおり、本件各土地は、原告らの主観的意図の点を度外視しても、客観的には宅地として利用される状態にあつたのであるから、広島市長の地目認定及び評価は、地方税法及び固定資産評価基準の適用に当つて何ら違法なものではない。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1のうち、本件土地区画整理事業が、昭和四四年一一月一四日に事業計画を認可され、昭和四六年一月一〇日工事に着手した事実は認めるが、昭和四七年一二月二六日換地処分が完了した事実は否認する。

2  同2のうち、昭和四七年度賦課期日(昭和四七年一月一日)当時、本件各土地が被告主張のような状況であつた事実は否認する。

第三証拠〈省略〉

理由

一  広島市長が本件各土地につき昭和四七年度の固定資産価格を決定したこと、原告らが被告に対し、固定資産課税台帳に登録された本件各土地の昭和四七年度の価格等について審査の申出をしたところ、被告が右申出について審査の結果これを棄却する旨の決定をなし、昭和四七年八月三一日付で原告らに対しその旨通知したことは、いずれも当事者間に争いがない。

二  ところで、地方税法三四一条六号ないし八号によれば、昭和四七年度は同法に言う第三年度に該当し、証人今津俊朗の証言によれば、本件各土地は基準年度(昭和四五年度)に係る賦課期日に所在する土地であることが認められるから、本件各土地に対して課する昭和四七年度の固定資産税の課税標準の価格を決定するについては同法三四九条三項が適用されることとなる。

しかして被告は、広島市長が本件各土地につき地目の変換が生じたと認定し、同条二項一号三項但書を適用して本件各土地の昭和四七年度賦課期日(昭和四七年一月一日)における価格を決定した、と主張するので、以下広島市長の右価格決定が適法であつたか否か、さらに右価格に基づいてした固定資産税及び都市計画税の各課税標準額の決定が適法であつたか否かについて判断する。

1  本件土地区画整理事業が昭和四四年一一月一四日事業計画を認可され、昭和四六年一月一〇日工事に着手したこと、昭和四七年度の固定資産税の賦課期日(昭和四七年一月一日)当時、本件各土地が土地区画整理事業の施行中にあつたこと、本件土地区画整理事業の当初の事業計画によれば、従前地の地積(台帳地積)に対する区画整理後の地積(公共用地、保留地を除く)の割合が〇・五五(三万八、一三九平方メートル分の二万〇、九九七平方メートル)になつていたことは、いずれも当事者間に争いがない。

2  いずれも成立に争いのない甲第一号証の一ないし四、同第一四号証、同第二一号証の一、二、同第二四号証、乙第八号証、同第九号証の五、いずれも原本の存在とその成立に争いのない甲第一八、同第二八号証、乙第九号証の一、同第一〇号証の一、二、原告本人尋問の結果により、いずれも昭和四七年一一月頃別紙目録三記載の土地を撮影した写真であることが認められる甲第四号証の一、二、本件各土地を撮影した写真であることに争いのない甲第五号証の一、二(なお原告本人尋問の結果によれば、いずれも昭和四八年一一月頃別紙目録五記載の土地を撮影したものと認められる。)、四、六ないし一〇(なお原告本人尋問の結果によれば、いずれも昭和四八年一一月頃別紙目録二記載の土地を撮影したものと認められる。)、いずれも原告本人尋問の結果により、昭和四九年五月別紙目録二記載の土地を撮影した写真であることが認められる甲第二〇号証の一ないし九、別紙目録五記載の土地を撮影した写真であることが認められる甲第二〇号証の一〇、真正に成立したものと認められる甲第二五号証、証人日戸義昭の証言(第一回)により昭和四七年一月八日本件各土地(別紙目録五記載の土地を除く)を撮影した写真であることが認められる(本件土地区画整理組合の造成地を撮影した写真であることには争いがない。)乙第一号証、いずれもその方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第二ないし第四号証、同第九号証の二、三、同第一一号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第九号証の四、及び証人日戸義昭(第一、二回)、同今津俊朗(後記措信しない部分を除く)、同国司健夫の各証言、原告本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く)、検証の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると次の各事実が認められる。

(一)  原告らは、その所有に属する本件各土地(当時の台帳地目は別紙目録中台帳地目欄記載のとおり)をもつて本件土地区画整理組合に加入したが、右組合の事業は、昭和四四年一一月一四日認可された事業計画(事業計画が昭和四四年一一月一四日認可されたことは当事者間に争いがない。)によつて、その目的を公共施設の整備改善を行なつて理想的な住宅地の造成を図ること、設計の方針を当時進行中の本浦町土地区画整理事業との有機的関連を図り相互の住宅地の利用増進を図るよう計画すること、用途地域指定を住居地域とすること、公共施設の整備につき街路、公園、水路を適正に配置し上下水道を完備することとされ、さらに、原告らを含む各組合員は本件土地区画整理事業のため工事請負人である株式会社共立組との間で宅地造成工事契約を締結し、右契約において株式会社共立組は、本件土地区画整理事業の施行地区内が宅地造成工事規制区域に指定されていたため、宅地造成等規制法施行令で定めた技術的基準に従つて認定された宅地として造成する工事をなすこと、上下水道並びに道路舗装工事完了までを施行するほか共同糞尿処理施設を設置することを約した。

(二)  株式会社共立組は、昭和四六年一月一〇日本件土地区画整理事業の工事に着手して(昭和四六年一月一〇日着工の事実は当事者間に争いがない。)、前記事業計画の趣旨に沿い、右宅地造成工事契約に従つて工事を進め、昭和四七年度の固定資産税の賦課期日である昭和四七年一月一日当時においては、右工事は本件土地区画整理事業の施行地区全般にわたつて約七〇メートル完了しており、道路の舗装工事は未着手であつたものの、すでに丘陵地の表土は削り取られ、道路(メイン道路の幅員八メートル)の付設、石積、整地も完了して本件土地区画整理事業の施行地区全般にわたり明らかに宅地造成途上の外観を呈していた。

(三)  そこで、広島市長は、本件土地の現況が、固定資産評価基準(昭和三八年一二月二五日自治省告示第一五八号)所定の地目(田、畑、宅地、塩田、鉱泉地、池沼、山林、牧場、原野、雑種地)のうち田から原野までのいずれの地目にも該当しないものとして、別紙目録中台帳地目欄記載の地目から雑種地に変換したものと認定した。

(四)  件外土地二は昭和四六年二月一七日に、件外土地三は昭和四七年度賦課期日(昭和四七年一月一日)より以前に、いずれも造成を完了し既に住宅地として利用されていて、本件土地区画整理事業の施行地区から、件外土地二は南東へ約二〇〇ないし三〇〇メートル、件外土地三は南へ約二〇〇ないし三〇〇メートル離れた所にそれぞれ位置し、件外土地三の最高地(本件各土地を評価するうえで標準とされた土地)の坪当りの評価額は約二万三、〇〇〇ないし二万三、五〇〇円であつたところ、本件土地区画整理事業の施行地区は、件外土地二及び三より国道二号線に近いうえに、その下の方にはバスも通つていて、比較的便利のよい地域であつた。

(五)  そこで、広島市長は、件外土地二及び三を本件各土地に類似した隣接の宅地として、街路条件(街路の幅員、交通量の多少、歩道車道の区別の有無、舗装の有無等)、公共施設等の接近条件(バス、電車の停留所からの距離)、宅地条件(自然環境の良否等)を比較検討したうえで、件外土地二及び三の基準年度の価格に比準する本件各土地の価格を坪当り二万二、〇〇〇円と決定した。

(六)  次に、件外土地一は、昭和四七年度固定資産課税台帳において現況地目山林、価格三三万七、五九三円(坪当り約六四円)と登録されているが、右土地は本件土地区画整理事業の施行地区外であるうえに広島遊園の敷地となつているところ、広島遊園は有料で遊覧、娯楽に供するためツツジ、桜、ヒマラヤ杉などが植樹されていて山林の様相を呈し、宅地造成はなされていない。

(七)  昭和四四年一一月一四日認可された本件土地区画整理事業の事業計画(事業計画が昭和四四年一一月一四日認可されたことは当事者間に争いがない。)は、区域の拡大、それに伴う道路、公園等の変更を行なうため変更を申請され、右申請にかかる変更事業計画は昭和四六年三月九日付で広島県知事の認可を受け、同日広島県報に公告されているところ、右変更事業計画によれば、整理前宅地地積(台帳地積)は四万四一二六平方メートル、整理後宅地地積(保留地を除いた宅地地積)は二万七、一一五平方メートルとされており、前者に対する後者の割合は〇・六一四(小数点四位以下切捨て)となる。

(八)  広島市長は、本件各土地の昭和四七年度における評価に際し、それが本件土地区画整理事業の施行地区内に属していて公共用地、保留地などにより減歩されることが明らかに予定されていたので、右割合により地積の減少があつた場合と同じ価格を算出した(二万二、〇〇〇円×〇・六一四=一万三、五〇八円)。

なお、本件土地区画整理事業の換地計画(関係書類として換地明細表、各筆各権利別清算金明細書などがあつた。)は、昭和四七年一〇月九日本件土地区画整理組合の臨時総会に提示されて組合員の承認を受け、同月月一一日から同月二四日までの期間、公衆の縦覧に供された。

(九)  さらに広島市長は、本件各土地が造成途上の土地であるところから、市街化区域農地の評価に準じて、本件各土地を宅地に転用する場合に通常必要と認められる造成費に相当する価額(坪当り四、五〇〇円)を右算出価格一万三、五〇八円から控除してこの算出価額九、〇〇〇円(一〇円未満切捨て)を本件各土地の坪当りの価格とし、これに本件各土地の各筆の坪数を乗じてその評価額を別紙目録中登録価格欄記載の各価格のとおり決定した。

(一〇)  広島市長は、以上のようにして昭和四七年二月二九日本件各土地の現況地目及び価格を決定し、さらに、これに基づいて固定資産税及び都市計画税の各課税標準額を決定して、広島市備付けの固定資産課税台帳に別紙目録中各欄記載のとおり登録した。

以上の各事実を認めることができ、証人今津俊朗の証言及び原告本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は前掲各証拠に照らしてたやすく措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

3  そこで、以下、右認定事実に基づき、まず昭和四七年度分の固定資産税の課税標準が、本件各土地につき地目の変換があつたため、基準年度の固定資産税の課税標準の基礎となつた価格によることが不適当であつたか、または当該市町村を通じて固定資産税の課税上著しく均衡を失したか否かについて検討する。

(一)  そもそも地目の認定は土地全体としての状況及び利用目的に重点を置いてなすべきものである(前掲固定資産評価基準)ところ、本件土地区画整理事業は宅地造成を目的としたものであること、及び昭和四七年一月一日当時本件土地区画整理事業の施行地区内は全般にわたり宅地造成途上の外観を呈していたことは前認定のとおりであるから、広島市長が、不動産登記事務取扱手続準則(昭和三八年四月一五日民事甲第九三一号法務省民事局長通達)所定の地目の定め方に従い、前掲固定資産評価基準所定の各地目(田、畑、宅地、塩田、鉱泉地、池沼、山林、牧場、原野、雑種地)のうち、本件各土地の現況地目を、田ないし原野のいずれにも該当しない雑種地と認定したのは相当というべきである。

(二)  原告は、昭和四七年一月一日当時本件土地区画整理事業は未完成であつたから、本件各土地の使用収益は全く不可能であり、現況地目は未定というほかはないこと、原告らが本件土地区画整理組合に加入したのは換地を畑として利用する目的であつたこと、原告らは昭和四八年頃から本件各土地の換地を事実上畑として耕作していること、広島市長は昭和五〇年以降本件各土地を農地と認定していること、等を理由に、広島市長の地目認定及び価格決定が違法であると主張する。しかしながら、固定資産税は、現実の具体的収益に課税しようというものではなく、固定資産そのものの有する使用収益し得る価値に着目し、そこに担税力を見出して課税するものであるところ、右価値は賦課期日当時のものであるから、昭和四八年以降(したがつて昭和五〇年以降も)の本件各土地の状況は右価値の判断にとつて参考とはならず、この点に関する原告の主張は失当であり、また賦課期日当時本件各土地の使用収益が不可能であつたとしても、前記のとおり本件各土地は近い将来宅地として十分に利用し得るものであつたから、広島市長が地目を認定し課税したのは相当であつて原告のこの点に関する主張は理由がない。

さらに付言すると、地目の認定は利用目的にも重点を置くべきであるが、前記のとおり固定資産税は固定資産の有する収益可能性に着目して課税するものであるから、右の利用目的は客観的に判断すべきものであるところ、本件各土地の状況は明らかに宅地造成中だつたのであるから、その客観的な使用目的は宅地であるというべく、仮に原告らが主観的には畑として利用する目的をもつていたとしても、そのことは判断の資資料とはなり得ないのである。

以上の説明によると、従前山林ないし畑であつた本件各土地は、本件土地区画整理事業によつて整地され、道路を付設され石積を築かれるなど宅地造成途上の状況(雑種地)に変換されたものであるから、広島市長が、本件各土地につき地目の変換があつたため、昭和四七年度分の固定資産税の課税標準が基準年度の固定資産税の課税標準の基礎となつた価格によることは不適当であると判断し、地方税法三四九条二項一号、三項但書を適用して、昭和四七年度における本件各土地の価格を決定したことは適法というべきである。

4  そこで次に、本件各土地の決定価格が、これに類似する土地の基準年度の価格に比準する価格として相当であつたか否かについて検討する。

(一)  広島市長が本件各土地の類似土地に選定した件外土地二及び三は、いずれも本件土地区画整理事業の施行地区から約二〇〇ないし三〇〇メートル離れた所に位置し、付近一帯が造成工事によつて宅地化され既に宅地として利用されていることは前認定のとおりであるから、宅地造成が完了した場合の本件各土地に類似する土地として比較することが不相当であるとはいえず、さらに前認定の事実からすると、件外土地二及び三と比較して、本件各土地が街路条件、公共施設等の接近条件、宅地条件等において、劣つていないことが認められるから、宅地造成完了時における本件各土地の比準価格を坪当り二万二、〇〇〇円と認定したことをもつて違法ということはできない。

(二)  そして、広島市長は、本件各土地そのものの有する使用収益し得る価値を把握するため、それが土地区画整理事業施行中であることに鑑み、予定される地積の減少及び宅地造成費用等を考慮して前認定のとおり本件各土地の坪当りの価格を九、〇〇〇円として、本件各土地の各筆評価額を別紙目録中価格欄記載の各価格のとおり決定したものであるから、これをもつて、不相当な価格であるとは到底言うことができない。

(三)  原告は、本件各土地には特有の欠陥があつたと主張する。しかしながら、仮に現在本件各土地につき原告主張のような欠陥があるとしても、本件各土地については前認定のように、原告らは株式会社共立組との間で宅地造成を目的とする請負工事契約を締結していたのであり、且つ前記事業計画及び請負工事契約に従つて工事が進んでいたのであるから、賦課期日当時においては本件各土地も本件土地区画整理事業の施行地区内の他の土地と同様な使用収益可能性を有していたものというべきである。よつてこの点に関する原告の右主張も理由がない。

(四)  また原告は、件外土地一が本件各土地に隣接した類似土地であるにもかかわらず、これに比較すると本件各土地は著しく高く評価されている旨主張する。しかし前認定の事実によれば、件外土地一は本件土地区画整理事業の施行地区外にあつて、しかも山林の様相を呈しており、本件各土地には全く類似していないのであるから、右主張もまた理由がない。

(五)  次に原告は、広島市長が従前地の地積(台帳地積)に対する区画整理後の地積(公共用地、保留地を除く)の割合の算定を誤つていると主張する。しかしながら、賦課期日当時には原告主張の換地明細表及び各筆各権利別清算金明細書は未だ存在しなかつたこと前認定のとおりであるところ、固定資産税の課税標準たる価格は地方税法四一〇条によつて毎年二月末日までに決定しなければならないのであるから、広島市長が昭和四七年度の固定資産税の課税標準たる価格を決定するに当つて、右換地明細表及び各筆各権利別清算金明細書を参考にせず、したがつて、賦課期日当時における本件各土地の使用収益可能性を判断するうえにおいて、広島市長が変更事業計画上の数字を用いて算定したことは止むを得ないものというべきであり、この点に関する原告の主張もまた理由がない。

(六)  さらに原告は、本件各土地に対する地目認定及び価格決定が評価時点を繰り上げてなした税金の先取りである旨主張する。しかしながら、既に判断したように、地目は賦課期日当時における本件各土地の現況によつて認定したものであり、価格は宅地造成完了時の比準価格を賦課期日当時の価格に修正したものであるから、原告の右主張が理由のないことは明白である。

5  続いて原告は、本件各土地の従前地は山林及び畑であり、換地後の大部分の現況も畑であるから、昭和四七年度固定資産課税台帳に登録された固定資産税及び都市計画税の各課税標準額は、昭和三八年度の固定資産税課税標準額によるべき旨主張する。しかし、原告の主張は、本件各土地が農地であることを前提にして農地に対する負担調整措置を講ずるべきであつたというものであるところ、前認定のような事情により、本件各土地は昭和四七年度賦課期日当時において、地目が雑種地に変換したものと認定されたものであるから、本件各土地に対しては農地に対する負担調整措置を講ずる余地はなく、原告の右主張はその前提を欠き理由がない。

三  以上の説明によると、広島市長が本件各土地についてなした昭和四七年度の価格並びに固定資産税及び都市計画税の各課税標準額の決定はいずれも適法であつたこと明白であるから、昭和四七年度固定資産課税台帳に登録した本件各土地の価格及び課税標準額も正当であり、したがつて被告のした原告の審査申出を棄却する旨の決定には何ら違法の点はないものと言わねばならない。

四  よつて、原告の被告に対する本訴請求は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 植杉豊 大谷禎男 川久保政徳)

目録及び選定者目録〈省略〉

評価算式比較表

〈1〉

減歩算式の方法別明細

〈2〉

区画整理後の公簿総地積

区画整理前の公簿総地積

〈3〉

1-減歩率

〈4〉

標準地の3.3m2当り単価

〈3〉×〈4〉

〈5〉

造成費

3.3m2当り評価額

広島市長の用いた減歩算式

27115m2/44126m2

0.614

22,000円

13,508円

4,500円

9,008円

事業計画書の数字を用いた場合の減歩算式

20997m2/38139m2

0.55

22,000円

12,100円

4,500円

7,600円

換地明細書の数字を用いた場合の減歩算式

28171m2/55724m2

0.506

22,000円

11,320円

4,500円

6,820円

各筆各権利別清算金明細書によるもの

2562m2/5878m2

0.435

22,000円

9,570円

4,500円

5,078円

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